工程 1 : 精米

米を磨く 12 h – 100 h(0.5 – 4 日)

酒米の表層に多く含まれるタンパク質・脂質を45〜72時間かけて徐々に削り、雑味の原因を取り除きながら心白を露出させることで、軽快で雑味のない味わいを実現する。精米歩合は酒質を決定づける重要パラメーターで、大吟醸では28%まで磨く蔵もあるが、吟醸香と米旨味のバランスを取るため蔵ごとに最適値が設定される。精米中は胴割れや摩擦熱を防ぐために段階的に回転数を下げ、米温を常時監視しながら冷却送風で温度を15℃前後に維持する。

精米された酒米

工程 2 : 洗米・浸漬

水との対話 数秒 – 数分

自動洗米機や吟醸用の手洗いで糠を瞬時に洗い流し、続く浸漬で目標吸水率を得るまで秒単位で水中時間を管理する「限定吸水」を行う。
米が吸水しすぎると蒸米が軟化して崩れ、香味が濁るため、精米歩合や水温に応じてストップウォッチで管理する例も多い。浸漬後は一晩の水切りで表面水分を揮発させ、粒内水分を均一化して外硬内軟の蒸し上がりを狙う。

浸漬中の酒米

工程 3 : 蒸米

熱による変容 約40 分+放冷30 分

連続蒸米機や甑で約40分、高温蒸気を当ててデンプンを完全α化し、麹菌が利用しやすい状態へ変換する。理想の蒸米は外側が乾き硬く内部に柔らかさが残る“外硬内軟”で、麹菌の破精込みを均一にしつつ醪中での過度な溶解を防ぐ。
蒸し上がりは握り飯状にして硬さ・伸び・香りを五感で確認し、蒸気圧や時間を微調整して翌仕込みにフィードバックする。

蒸米の様子

工程 4 : 麹造り

微生物の神秘 48 – 72 h

30℃前後・湿度60%の麹室で蒸米に種麹を振り、48時間かけて繁殖させながら“床もみ”“盛り”などで温度ピークを制御し、酵素生成を最大化する。
温度履歴がアミラーゼとプロテアーゼ比を左右し、糖化力・旨味・香りの骨格を決めるため、蔵ごとに麹設計表が管理される。

麹造り

工程 5 : 酒母造り

酵母の育成 速醸:7 – 15 日

麹・蒸米・水に乳酸(速醸酛)または自然乳酸菌(生酛・山廃)を用いて酸性環境を作り、約10〜14日で酵母数1〜2億cells/mLの強健なスターターを作る。
生酛系では櫂入れと摺り放しによる山卸し運動で乳酸菌を増殖させ、深い酸と複雑な香味を付与する。発酵温度6〜12℃の低温管理により泡を抑え、酵母の生理的ストレスを軽減して健全な醪へ導く。

酒母

工程 6 : 醪造り

並行複発酵 20 – 35 日

初添・仲添・留添の三段法で原料を3日かけて仕込み、20〜30日間並行複発酵を進行させてアルコール度18%前後まで高まりながら糖濃度を低く保つ。
麹が産生する酵素の糖化と酵母の発酵が同時進行することで高アルコール化しても発酵が止まらず、日本酒独自の深い旨味が形成される。

醪発酵

工程 7 : 上槽

搾りの技法 14 – 21 h

醪を酒袋に詰めて槽やヤブタ式圧搾機で12時間前後圧搾し清酒と酒粕を分離する。香味最優先の袋吊りは2〜3日自然滴下させるため歩留まりは下がるが、雑味の少ない華やかな酒質が得られる。
蔵は酒質目標と生産効率のバランスを見極めて圧搾方法を選択する。

上槽

工程 8 : 清澄化

磨き上げる透明感 2 – 3 日静置

上槽後の酒を0℃近くで静置し、滓を沈殿させて上澄みを移送する滓引きを1〜2回行うことで粗い固形分を除去する。次に活性炭や濾過助剤を組み合わせた濾過で微粒子や余分な色・香りを吸着し、酒ごとに狙った透明度・香味に整える。
活性炭量が多すぎると香味まで抜けるため、試験濾過と官能評価で最適条件を決定する。

濾過後の清酒

工程 9 : 火入れ

品質の安定 数分(1 日未満)

清酒を60〜65℃まで加熱し火落ち菌を殺菌、酵素を失活させて劣化を防ぐと同時に瓶貯蔵中の品質予測性を高める。プレートヒーターや蛇管で加温した後、冷酒との熱交換で10℃以下へ急冷し、熱劣化と還元臭の発生を抑える。
生酒や生貯蔵酒は火入れ回数を減らしフレッシュ感を残す代わりに要冷蔵で流通させる。

火入れ工程

工程 10 : 貯蔵・熟成

時が生む深み 数週間 – 12 か月以上

火0〜10℃のタンクまたは瓶で3か月〜3年貯蔵し、タンパク質変性や酸エステル再配平衡により味が丸くなり香りが複雑化する。淡麗タイプは半年以内、濃醇タイプは1年以上の熟成で荒さが取れ、色合いも黄金色に落ち着く。
蔵では光・酸素・温度を管理し、ステンレス・ホーロー・瓶など容器の違いで熟成表現を使い分ける。

熟成タンク

工程 11 : 瓶詰め

完成、そして旅立ち 1 – 2 h

液面下充填や窒素置換で溶存酸素を0.2ppm以下に抑え、最新モノブロック充填機で打栓して酸化を最小化する。割水によってアルコール度数を15〜16%に調整し、香味バランスと酒税計算を最適化するが、水は酒同様に加熱殺菌して冷却後ブレンドされる。
瓶口の酒滴はカビ源となるため拭き取りとキャップ殺菌を徹底し、紫外線による日光着色を避けるため遮光瓶や段ボールで流通する。

瓶詰めされた日本酒